馬力をつけるの語源・中江の桜鍋と吉原最後の料亭・金村 / 東京 日本堤・三ノ輪 1905年創業 (明治38年)

江戸時代には隅田川から分かれる山谷堀が掘削(昭和後期に埋立)され、土手(日本堤、昭和初年に取崩)が築かれていた台東区日本堤。『あしたのジョー』の舞台となった泪橋があることで知られています。かつて山谷堀沿いは、昭和中期まで現在の台東区千束にあった遊郭(新吉原)への遊興客で賑わい、今もその名残もあって何軒かの老舗の飲食店が残っており人気を博しています。

1905年創業、土手の蹴飛ばし屋こと 中江

三ノ輪駅から徒歩10分ほど、吉原大門のバス停の目の前にある 桜なべ 中江。1905年(明治38年)に、中江祖太郎氏によって創業された、馬肉のお鍋・桜なべの専門店です。桜なべは、中江さんのある吉原近辺で産まれた東京の郷土料理とも言える料理で、吉原遊廓のお客さんに滋養強壮に良いと愛された料理です。スタミナがつく料理を食べることを「馬力をつける」と言いますが、その語源が吉原の桜鍋=馬肉を食べることに由来しているのだとか。そんな吉原には二十軒以上の桜なべのお店があったそうですが、現在は中江さん1店しか残っていません。

という、中江さんには何度かお伺いしているのですが、中江さんで定期的に開かれている吉原散策イベントに合わせてお伺いしました。一緒に「知らなくても困らない日本」ってVoicy番組を配信している知の冒険の中の人と一緒に伺っています。ちなみにイベントは、中江さんのメルマガで告知されることが多いので、気になる方はメルマガ登録をどうぞ〜。

という、中江さんの外観から。前回は夜だったので、今回は昼のショットをどうぞ。

もうちょい引きで。現在の建物は、1923年の関東大震災で倒壊してしまい、その翌年に再建されています。お隣の1889年創業・土手の伊勢屋さんと共に東京空襲を逃れ今もその当時の建物が残されています。2軒ともに国の有形文化財にも指定されているのですが、2軒並びでの指定はここ以外ないのだとか。

せっかくなので夜の外観もどうぞ。こちらは2021年訪問時です。

夜も雰囲気あって好きだなぁ。

暖簾をアップで。右手に土手、とあるのは、この日本堤が土手のような堤防が築かれいたから。お隣は”土手の伊勢屋'”と呼ばれますが、中江さんは”土手の蹴飛ばし屋”と呼ばれたりします。馬が後ろ足で蹴飛ばす姿から、桜肉料理店のことを蹴飛ばし屋と呼ぶ人がおり、土手にある蹴飛ばし屋さんで、土手の蹴飛ばし屋なわけです。

登録有形文化財の看板もかかっていましたよ。

こんな看板もありました。コロナ禍でテイクアウトをはじめ、最近は通販も始められています。一度、お取り寄せしてみたいんだよなぁ。

ここから店内です。私は1Fでしか頂いたことがなかったのですが、イベントでは2Fに上がることが出来ました。後で説明しますが、建物は松竹梅そして桜をモチーフにした意匠が所々に隠れていました。

こちらが2階の様子、早めに着いたことで写真が撮れました。いやぁ、素敵だなぁ。席左の背もたれにみたいのになっているのが松になります。

見えづらいですが、欄間の部分も松・竹・梅・桜それぞれのモチーフになっています。
お部屋の右側はこんな感じ。菊正宗の絵は菊正宗酒造さんから販促か何かで頂いた絵だそう。菊正宗酒造さんは阪神淡路大震災で様々なものが焼失してしまったこともあり、この絵は中江さんにしか残っていないそうです。

せっかくなのでアップで。菊正宗酒造さんからは絵を譲ってもらえないかとの話があったとかなかったとか。

額縁の下には株式会社本嘉納商店の文字。菊正宗酒造さんに社名変更される前、1919年-1965年まで使われていた社名です。そうするとこの絵は古い場合は100年以上前、新しくても50年以上経っているってことですね。歴史…! 部屋の逆側にはこんな手形も。左が千代の富士関、右が八角理事長、真ん中の心技体の文字が九重親方が書いたものだそうです。

中江のご主人から「力士でも手のサイズは変わらないんですよ」、「手を被せて写真撮る方も多いです」と言われやってみた図です。隠れているから見えづらいですが、確かにサイズはそんなに変わりませんでした。

ということでお食事です。今回は吉原散策ツアーのコースになります。

別角度でどうぞ。手前の前菜っぽいものは、一番右が馬のサラミ、真ん中が馬刺しです。

馬肉の握りもセットです。この柔らかさがほんと最高だよなぁ。ちなみに馬肉は福岡・久留米の契約農場で育てたものです。通常肉は若いほうが美味しいとされると思うのですが、中江さんの場合通常の2倍、5−7年飼育したたっぷり脂肪を蓄えた馬を冷凍せずに輸送したものを使っているそう。ということで、めっちゃ美味しいです。

ついで桜鍋です。桜鍋は江戸甘味噌を使って仕立てています。都内にもう一軒有名な桜鍋屋さんがありますが、あちらは肉の上に味噌を乗せるスタイル、中江さんは肉の下に味噌を置くタイプです。どちらの桜鍋かを判別する際にご利用ください(いつ?)。

今回説明をして頂きながら食べ、初めて知ったのは、「馬肉は火を通しすぎないこと」です。色が変わったらすぐ食べるぐらいが一番美味しいのだとか。火を通しすぎると硬くなるそうです。

卵にダイブさせて食べます。確かに、これぐらい柔らかいほうが美味しい…!

締めは卵とじです。前回(下部参照)に書いていますが、これ世界一白米に合う食べ物の可能性あります。

どーん!これ、ほんと最高でした…!

この日は、吉原最後で最古の料亭である金村さんも見学させて頂きました。暖簾に「桜なべ中江別館」とあるのは、2009年(平成21年)に金村さんの女将さんがご高齢で廃業を決めた際に、この場所を引き継がれたのが中江さんだから、になります。その時から中江別館として運営を続けていらっしゃいます。会員のみの予約制のお店です。

1Fは博物館のようになっていて、吉原に関する展示物もいくつか飾られていました。この画面右側に写真が飾られていたのですが、それが1つ下の写真です。

この写真は花魁道中のもの。映画等でしか見たことなかったので、ちょっと感動…! せっかくなので、説明文も。花魁とは吉原の遊郭で最も格の高い遊女のことを指します。文末の「ありんした」がカッコ良いね。 吉原の地図も飾られていました。

こちらは今昔図になっていて、明治27年、関東大震災時、東京大空襲時が並んでいました。 こちら明治27年の地図をアップで。吉原は他の区画から区切られた四角い空間だったのですね。説明されて初めて知りました。 所々に歴史の説明もこかれていました。吉原遊廓は昭和32年で300年の歴史を閉じられています。

こちらも吉原の説明。この頃の建物、見てみたかったなぁ。私はこの日が吉原に入るのほぼ初めてだったのですが、この辺りは古い建物が残っておらず、この写真で見られるような風景は全く残っていないのです。 最後にお部屋を見せて頂きました。こちら貸し切って、芸者呼んで遊んだりもできるそうですよ。いつか貸切にして体験してみたい! お部屋には掛け軸も飾られていました。確か何代か前の中江のご主人が描かれたものだったかと。

という金村の見学もとっても楽しかったです。ここはほんといつか貸切会やります。行きたい人は、私に連絡くださいw。

と、ここからは2021年訪問時、1Fでご飯食べた時の記事です。上でご紹介しているもの以外も食べておりますので、食メインの方はここからも読んでみてください。

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ということで中に入りました。席に着くと、桜鍋の楽しみ方が書かれた紙が置かれていました。初めての人に優しいですね。

メニューにはちゃんと歴史の説明も。こういうの嬉しいなぁ。

桜鍋の単品メニューはこんな感じです。ロースだと1470円と物凄くリーズナブル!他にもステーキやササミ焼きといった気になるメニューも。メニュー豊富で迷った時は、コースを頼むのが良いですよね。どのコースも馬刺し、ステーキ、桜なべがついてます。最高か。

ちなみに季節メニューもありました。松茸も一緒に食べられるとか天国か。

迷った末に今回は定番コースに。まずは先付けから出てきます。

そして馬刺し。これがまた、もう、ほんと、最高!もう今日の優勝が確定したと感じるスタートです。

そして馬肉の握り。馬肉は酢飯にも超合うのですね。めちゃうめぇ。

シーザーサラダにも馬肉が。3年分ぐらいの馬肉食べてる気分になりますね。 そしてステーキ。馬肉をステーキにしてもねぇ、とか疑ってました。美味い肉はステーキにするとより美味い!

そして桜なべ用の馬肉が入場です。いやー、きめ細やかで美味そう!

ザクはこんな感じです。

第一弾が煮られています。グツグツ…。

肉が煮えた姿がこちら。ひゃー、最高に美味しい!桜なべといえば、味噌で煮るのが一般的ですが、そのスタイルを作ったのが中江さんの創業者である中江祖太郎氏。中江さんは今に残る桜なべスタイルの元祖店でもあるのです。
桜なべといえば、ですが、終盤戦に卵を入れるんです。卵を入れて煮込んでどうするかというと…、

Yes!ご飯にオンして食べます。これがまた本当に最高で。世界一うまいご飯に乗っける汁物の可能性あります、これ。
ほとんど変わらないカットをもう一枚どうぞ。それだけテンション高かったと捉えてくださいw。

デザートはアイスで。流石に馬肉ではありませんでしたw。
って、注釈が必要なぐらい全部馬肉でした、最高っす。

中江さんは2021年の訪問も楽しかったのですが、ご主人にご説明をして頂きながら食べる2022年はさらに楽しさが増して最高でした…!馬力もついた気がしますw。味ももちろんのこと、ロケーション、歴史的な価値、東京の郷土料理としての側面等々、体感すべきことが沢山あるお店です。東京に来たら行ってみる老舗候補にあげてもらえると嬉しいなぁと思っています。

——- 桜なべ中江 基本情報———-
〇創業年 1905年創業 / 明治38年創業
〇営業時間
・平日
11:30~14:00(L.O.13:30)
17:00~22:00(L.O.21:30)
・土・日・祝
11:30~21:00(L.O.20:30)
※月曜日 定休日
〇住所
東京都台東区日本堤1-9-2
(公式サイト)⇒ 桜なべの味と歴史を継いで110年 桜なべ中江オフィシャルWEB

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